記憶の街

                堀 剛

 

古びたスピーカーから
奏でられたのは
古びた記憶だ

今日、急にM君に会いたいと思う
大学の地下通路を抜けると
「民殺横町」
軽音楽部のドアと誇りまみれのアルト・サックスの音
突き当たりを右へと折れると
新報社
近文研
現中研
その向こうに僕たちの文芸部があった

もう
M君に会えるはずもない
僕も 君も
あれから何十年の時を生きて
互いに行方も知れない

ジャズと
きつい煙草
一杯のコーヒーで
僕らは何枚のマイルスを聴き続けただろう
街角の喫茶店「古今」も今は無い

僕らは街を記憶している
だが、僕らを記憶する街はどこにもない
そのうち 世界だって無くなるのかもしれない

そら、あの四つ角の新しい白いビルに
古い街並みを想い起こすのは
僕であり
きっと M君もそうするだろう
見えているのは
僕らの記憶
古びたスピーカーから流れるマイルスの曲
世界はもうすっかり
記憶の方からしか見えないのだ

M君だってそうだろう
街を歩けば
出会うのは
あの頃の僕らでしかない