堀 剛
記憶が生起するためには
存在が数多く破棄されていなければならない
「想い出す」と発語するには
心像が異質なものへと同時化されねばならない
身体的遭遇の全風景でさえ
故郷の風景でさえ
美的記憶を生み出すためにも
精一杯残虐に現在が破壊されねばならない
記憶のために
あるいは忘却のために
精一杯の破棄がコマンドされるのだ
記憶の風景は、ただ記憶する者のためにのみ存在する
思い出されるためには
一度は忘れら去られねばならない
気が付けば、記憶の円環上にいるのは
ただ自分だけだ