堀 剛
1
内部の私は、内部に向かって、 私は私ではないのかも知れないと言う。
その時、他人の声で語りかけてみる。
牢獄にいる私の夢。 審判を待つ。 私のいない部屋で、既に私の裁判が始まっているらしい。
判決がやがては読み上げられ、私の名が抹消される。
何者も1キュビト以内には近づくな。 何者も会話をするな。
何者も「私」についての記憶を留めてはならない。 忘却せよ。
内部から私は私について忘却する。 私の名をいつか憶い出すために。
ここに抹消する。
2 「ラマン」を観て
既に痕跡を残して、落下予定地点への着地の瞬間を考え始めている。
港には、耐用年数超過の船舶が羅列する。
海の表情は、船を乗り継いでいく人の風景である。
時代を乗り継ごうとする背後に、生きた量だけが痕跡を留める。
連れ発つ女もどこかへ行ってしまって、出航の間際に一人の男。
船でなければ旅立てない。忘却の儀式だから。
おまえはおまえで、私は私で、どこかで涙を流すのか。
既に生きてしまった量だけ憶い出は深いのだ。
3
尚、存在の廃棄のために書く
書くことは解体
そこに差異(意味)を導くことができれば、私の不幸は終わるだろう
4
自己が自己に対して課すもの、それ以外に何もないのだとすれば、
世界に対して、私は透明とならねばならない。
5
二心の空間の動揺
複数の錨で止めを入れる、
痛む。
傍らを
通過する君の視線の方向を
私は見れずに
別れを確認する
朝を迎えるように
睡魔と覚醒との間で
6
深く球体の深部に幽閉を繰り返すために拒絶する。 外部と同じ比重で内部へと。
外部の忘却の彼方に、なお一点の差異へのこだわりを発露する。
自らが自らに課すもの。 自らに発露する言霊。
外部へ対立することに於いてのみ、球であることを知る時の閉塞。
内部が透明へと導かれるために、痛みを内部へかばう。
少女の舟は此岸を去った。
やがて、球体は忘れられるために、なお球体であり続ける。
7
深く球体の内部では、私は誰にも出会わない。
8
記憶の抹消、の抹消の記憶を、なお抹消する
定義を定義するものを拒絶する
外部を抹消するために
ただ死体にはならないままで
ただ幽霊にもならないままで
構造と意味について考える
神と実存について考える
あとしばらく
白旗を振れば
外部と内部から互いに歩き出すかも知れない
互いにもう一度顔を見合わせるかも知れない
それはともかく
外部を拒絶する
内部のままで
内部が内部に関係する関係のままで
20200525掲載